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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)999号 判決

原告 八木洋一 外二名

被告 本澤ヱイ 外一名

主文

一  被告本澤ヱイは原告河野昭満に対し、別紙物件目録(三)、(四)記載の各土地を承役地、同目録(一)記載の土地を要役地とする別紙登記目録(二)記載の地役権設定登記手続をせよ。

二  被告本澤ヱイは原告池内竹良に対し、別紙物件目録(三)、(四)記載の各土地を承役地、同目録(二)記載の土地を要役地とする別紙登記目録(三)記載の地役権設定登記手続をせよ。

三  原告河野昭満と被告本澤ヱイとの間において、同原告所有の別紙物件目録(一)記載の土地と同被告所有の同目録(四)記載の土地との境界が別紙図面のロ点とワ点を結ぶ直線であることを確認する。

四  原告池内竹良と被告本澤ヱイとの間において、同原告所有の別紙物件目録(二)記載の土地と同被告所有の同目録(四)記載の土地との境界が別紙図面のワ、ヲ、ルの各点を順次直線で結ぶ線であり、同被告所有の同目録(五)記載の土地との境界が同図面のル点とリ点を結ぶ直線であることを確認する。

五  被告本沢興産有限会社は原告河野昭満に対し、別紙物件目録(六)記載の建物を収去し、その敷地のうち別紙図面の斜線部分を明け渡せ。

六  被告らは原告河野昭満及び同池内竹良が別紙物件目録(三)、(四)記載の各土地を通行することを妨害してはならない。

七  被告らは原告河野昭満に対し、別紙物件目録(三)記載の土地に設定された別紙登記目録(一)記載の賃借権設定登記の抹消登記手続をせよ。

八  被告らは原告河野昭満及び同八木洋一に対し、各自金一五〇万円及びこれに対する昭和五七年二月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

九  原告河野昭満及び同八木洋一のその余の請求を棄却する。

一〇  訴訟費用は五分し、その一を原告ら、その余を被告らの各負担とする。

一一  この判決の第八項は無条件で、第五項は原告河野昭満において金五〇万円の担保を供したときにそれぞれ仮執行することができる。但し、被告本沢興産有限会社が金一〇〇万円の担保を供したときは、右第五項の仮執行を免れることができる。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

1  原告ら

主文第一ないし第七項同旨

被告らは原告河野昭満及び同八木洋一に対し、各自金三五九万二二一三円及びこれに対する昭和五七年二月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言(主文第五項、前々項及び前項)

2  被告ら

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

二  原告らの請求原因

1  被告本澤ヱイの実母である本澤タネは、別紙図面のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、へ、ト、チ、リ、ヌ、イの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地(現在では別紙物件目録(一)ないし(五)に分筆されている、以下、当初のタネ所有地という)を所有していたが、昭和三八年五月二日から同四〇年一一月三日までの間三回に分けて同図面のイ、ロ、ワ、ヌ、イの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地を花岡イシに売り渡し、同三八年六月一四日同図面のリ、ヌ、ワ、ヲ、ル、リの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地を中岡八代に売り渡し、併せて右売買にあたり通路開設のため、右各売却地をそれぞれ要役地とし、同図面のロ、ハ、ニ、ホ、へ、ト、ル、ヲ、ワ、ロの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地を承役地とする期間の定めのない通行地役権を設定した。

なお、右各売買はいずれも一筆の土地の一部分について面積を指示してなされたところ、その後に至り後記第一次訴訟の確定判決によつて売買の目的地が右記載の各部分に特定され、花岡の買受け地が別紙物件目録(一)記載の土地(以下、六三七番五の土地という)、中岡の買受け地が同目録(二)記載の土地(以下、六三七番六の土地という)としてそれぞれ分筆のうえ所有権移転登記された。また地役権の承役地についても、当初の合意内容は売買される土地の東側に北は里道南は公道に通ずる幅員四メートルの通路を敷設するというものであつたが、売買の目的地が右のとおり特定したことから、結局前示の位置、範囲に特定し、次いで同図面のハ、ニ、ホ、カ、ハの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地が別紙物件目録(三)の土地(以下、六三七番七の土地という)、同図面のロ、ハ、カ、ホ、へ、ト、ル、ヲ、ワ、ロの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地が同目録(四)記載の土地(以下、六三七番八の土地という)として順次分筆された結果、地役権の承役地は六三七番七及び同番八の各土地となり、同図面のト、チ、リ、ル、トの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地が同目録(五)の土地(以下、六三七番一の土地という)として残存した。

2  花岡は昭和五六年五月二七日、中岡は同年六月六日それぞれ各自の右所有地を原田克に売り渡し、原田はこれを同月二六日原告八木、同河野の両名に代金四一一二万四〇〇〇円で売り渡し、右原告両名は各土地についてそれぞれ中間省略の方法で共有持分を各二分の一とする所有権移転登記をしたが、右両名はこのうち六三七番六の土地を本訴提起後の昭和五七年九月二〇日原告池内に代金一一三一万八六七六円で売り渡し、次いで原告八木は六三七番五の土地について同原告が有する二分の一の共有持分権を同月二九日原告河野に代金一〇六一万〇一八四円で売り渡し、それぞれ移転登記を了した。

一方本澤タネは昭和五三年一一月一九日死亡し、被告本澤ヱイが六三七番一、七、八の各土地の所有権を相続によつて取得し、同五六年一一月二七日所有権移転登記を受けた。従つて、同被告は右各土地に付随する一切の権利義務を承継したことになるから、同被告は原告河野、同池内に対し、本澤タネの相続人として別紙登記目録(二)、(三)記載の地役権の設定登記をする義務がある。

3  ところで、本澤タネは花岡及び中岡に対する前記各売買を争い、所有権移転登記に応じなかつた。そこで花岡及び中岡の両名は、本澤タネを被告として各自が買受けた土地の所有権移転登記を求める訴訟を提起(当庁昭和四三年(ワ)第一四五三号事件以下の上訴審を含めて第一次訴訟という)したが、右第一審で昭和四六年三月一日敗訴判決の言渡しを受けた本澤タネは、同年七月一七日当初のタネ所有地について、売買予約を仮装して同人の孫(被告本澤ヱイの子)にあたる本澤康博名義の所有権移転請求権仮登記を設定するとともに、地役権を設定した土地部分に倉庫の建築を企て、花岡らの土地使用と通路の通行を妨害する挙に出たため、花岡は第一次訴訟の確定判決に基づいて六三七番五の土地の所有権移転登記を受けた上、本澤タネ及び本澤康博を被告として土地所有権に基づく右仮登記の抹消と地役権に基づく右妨害の排除を求める訴訟(当庁昭和四八年(ワ)第一四五二号事件、以下、その上訴審を含めて第二次訴訟という)を提起し、勝訴の確定判決を得て右仮登記を抹消するとともに、右訴訟提起後通路上に建築された倉庫(以下、旧倉庫という)についても、右確定判決に基づく強制執行によつて昭和五四年暮にこれを収去した。

ところが、本澤タネは右第二次訴訟の第一審で昭和五一年五月二七日敗訴判決の言渡しを受けると、これより先同年二月三日に分筆されていた六三七番七の土地について、同年七月五日被告本沢興産有限会社(以下、被告会社という)を賃借権者とする別紙登記目録(一)記載の賃借権設定登記(以下、本件賃借権設定登記という)をし、被告会社もしくは被告本澤ヱイも、旧倉庫が収去されて間もなく別紙図面記載の場所に同物件目録(六)記載の建物(以下、本件倉庫という)を建築した。

しかし、本件賃借権設定登記は、被告らが花岡らの前記通路の通行を妨害する目的をもつて通謀してなした虚偽の賃貸借契約に基づく仮装のもので無効であるから抹消されるべきものであるし、本件倉庫は、花岡らから前記経過で土地を取得した原告河野及び同池内が有する通行地役権を現に侵害しているのみならず、別紙図面の斜線部分において六三七番五の土地に侵入し原告河野の所有権を侵害しているから、その収去と右侵入部分の明渡しがなされるべきである。

4  なお、六三七番五、六の各土地はいずれも第一次訴訟の確定判決に基づいて分筆と所有権移転登記がされたものであつて、右分筆により右各土地の範囲は確定したが、これによれば六三七番五の土地と同番八の土地との境界は別紙図面のロ点とワ点を結ぶ直線、同番六の土地と同番八の土地との境界は同図面のワ、ヲ、ルの各点を順次直線で結ぶ線、同番六の土地と同番一の土地との境界は同図面のル点とリ点を結ぶ直線であり、それぞれ右各線において境界を接しているところ、被告らはこれを争つている。

5  判決をも無視する被告らの右妨害行為は、被告らの共同不法行為に該当するが、原告河野及び同八木はこれにより次のとおり合計金三五九万二二一三円の損害を被つた。   (一) 本訴の提起に伴う弁護士費用 金一〇〇万円

(二) 本訴を提起するにあたつてなした処分禁止の仮処分手続に要した測量費、登記費用、交通費等 金一〇〇万円

(三) 右原告両名が六三七番五の土地を有効に利用できなかつたことによる損害 金五九万二二一三円

右原告両名が右土地を買受けた昭和五六年六月二六日から昭和五七年一月三一日までの二二〇日間、本件倉庫が存在するため右土地に建物を建築しようとしても建築確認が得られず、駐車場等の制限された利用しかできなかつたことによる賃料相当の損害金であり、右金額は六三七番五、六の土地購入代金を面積比により按分した金三二七五万一一五四円を基礎とし、賃料相当年利回りを年六パーセント、土地を有効に利用できない程度を五〇パーセントとして算出した。仮に右賃料相当の損害が失当としても、右土地の購入代金に対する右期間の民事法定利息年五パーセントの割合による損害を主張する。

(四) 慰藉料 金一〇〇万円

なお、(三)記載の損害が認められない場合には、右土地を有効に利用できなかつたことを慰藉料算定の判断資料とすべきであり、その場合の慰藉料金額は金一五九万二二一三円が相当である。

6  よつて、原告らは被告らに対し請求の趣旨記載の判決(遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日である昭和五七年二月二一日)を求める。

二  原告らの請求原因に対する被告らの答弁

1  原告らの請求原因1項のうち、本澤タネが当初のタネ所有地を所有していたこと、六三七番五と同番六の各土地が第一次訴訟の確定判決によつて分筆され、前者が花岡、後者が中岡にそれぞれ所有権移転登記されたこと、同番七及び同番八の各土地が分筆されたことは認めるが、その余は否認する。

2  同2項のうち、本澤タネの死亡と被告本澤ヱイの相続の事実は認めるが、花岡らから原告河野、同八木に至る各売買はいずれも知らない。

3  同3項のうち、本澤康博名義の仮登記が仮装によるものであること、旧倉庫が第二次訴訟の確定判決に基づく強制執行によつて収去されたこと、本件倉庫の建築主、時期、目的及びこれが原告河野所有地に侵入していることはいずれも否認し、原告らの主張は争うが、その余の外形的事実はいずれも認める。

4  同4項は否認する。

5  同5項の事実は否認し、主張は争う。六三七番五の土地は本件倉庫の南側で原告主張の通路に二メートル以上接しているので、建築基準法上の接道義務違反はなく、従つて本件倉庫が存在するがために建築確認申請が不許可になることはない。

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  まず最初に本澤タネと花岡イシ、中岡八代との間の各売買並びに地役権設定の有無について検討する。

本澤タネが当初のタネ所有地を所有していたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第一号証の一ないし五、第一五号証の一ないし三、第二一号証の一、二、第二二号証、第二四ないし第三一号証、第三二号証の一、二、第三三ないし第三八号証、第四〇、四一号証、第四四号証、乙第五号証、第一〇、一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇一号証、証人花岡イシ、同中岡邦雄の各証言、被告本澤ヱイ及び被告会社代表者本澤健治の各本人尋問の結果並び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

すなわち、本澤タネは、同人の実娘である被告本澤ヱイ並びにその夫である本澤健治(被告会社の代表取締役)らと同居していたが、被告本澤ヱイの居宅を建て替える費用を調達するため同被告を代理人としてタネの所有地を売却することとし、昭和三八年五月八日、同年一二月三〇日及び同四〇年一一月三日の三回にわたり別紙図面のイ、ロ、ワ、ヌ、イの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地を花岡イシに、同三八年六月一四日同図面のリ、ヌ、ワ、ヲ、ル、リの各点を順次直線で結ぶ土地を中岡八代にそれぞれ売り渡し、併せて右各売買にあたり、各売却地への通行の便宜を図るためその東側に、北は里道南は公道に至る幅員四メートルの通路を開設して買主に無償で提供する旨約し、このため右各売買代金は、当時の時価である坪当り約二万五〇〇〇円を越える坪当り三万円で合意され、その支払がされた(なお、花岡らが買受けた土地は、当初のタネ所有地の一部分について当事者が現地で面積と位置(間口及び奥行)を指定して売買されたもので、昭和四二年六月二日の合筆によつてタネ所有の布施市友井六三七番一の土地の一部分となり、次いで第一次訴訟の確定判決により、花岡の買受けた前記土地が別紙物件目録(一)記載の土地(六三七番五の土地)、中岡八代の買受けた前記土地が同目録(二)記載の土地(六三七番六の土地)としてそれぞれ分筆された上、各自に所有権移転登記がされた)。その後昭和五一年二月三日別紙図面のハ、ニ、ホ、力、ハの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地が同目録(三)記載の土地(六三七番七の土地)として、同五六年一二月二五日同図面のロ、ハ、カ、ホ、へ、ト、ル、ヲ、ワ、ロの各点を順次直線で結ぶ範囲内の土地が同目録(四)記載の土地(六三七番八の土地)として順次前記友井六三七番一の土地から分筆され、その結果残余地は同目録(五)記載の土地(六三七番一の土地)となつた。以上の事実が認められ、前掲各証拠中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、六三七番七及び同番八の各土地を合わせた範囲が前記通路に該当するから(もつとも、一部幅員が四メートルに不足する部分があるが、前記分筆の経過からしてやむを得ないものであつて、当初の合意の趣旨に反するとはいえない)、以上によれば、本澤タネは花岡イシあるいは中岡八代に対する前記各売買にあたり、六三七番五の土地あるいは同番六の土地をそれぞれ要役地とし、同番七及び同番八の各土地をそれぞれの承役地とする期間の定めのない通行目的の地役権を無償(但し、実質上の対価は前記のとおり土地代金に含めて支払われている)で設定したものと解するのが相当である。

二  そこで、地役権設定登記義務の存否並びに土地の境界について判断する。

まず、本澤タネが昭和五三年一一月一九日死亡し、被告本澤ヱイが六三七番一、七、八の各土地の所有権を相続によつて取得したことは当事者間に争いがなく、これによれば同被告は本澤タネが負う前記地役権の設定登記義務をも承継したものと解されるところ、原告河野昭満本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第八七、八八号証、第九八号証の一ないし三並びに成立に争いのない同第八九、九〇号証によれば原告河野、同池内が土地を所有するに至つた原告らの請求原因2項記載の諸事実を認めることができ、なお、右原告本人尋問の結果により本件通路の一部をなす六三七番八の土地の状況を撮影した写真と認められる検甲第一、第七、第一〇号証によると、右土地は現況宅地であることが明らかであるから、被告本澤ヱイは本澤タネの相続人として、原告河野に対し別紙登記目録(二)記載、原告池内に対し同目録(三)記載の各地役権設定登記をなす義務がある。

また、以上に認定したところによれば、原告河野所有の六三七番五の土地と被告本澤ヱイが所有する同番八の土地との境界は別紙図面のロ点とワ点を結ぶ直線であり原告池内所有の同番六の土地と同被告が所有する同番八の土地との境界は同図面のワ、ヲ、ルの各点を順次直線で結ぶ線、同番六の土地と同被告所有の同番一の土地との境界は同図面のル点とリ点を結ぶ直線であるということができる。

三  次に、本件賃借権設定登記の抹消義務の有無並びに本件倉庫の収去、土地明渡し等の点について検討する。

まず本澤タネが昭和五一年七月五日に被告会社を賃借権者とする本件賃借権設定登記をしたことは当事者間に争いがなく、被告本澤ヱイ及び被告会社代表者本澤健治の各本人尋問の結果並びにこれによつて真正に成立したものと認められる乙第二、三号証、第八号証(乙第二号証中官署作成部分の成立は争いがない)、成立に争いのない甲第七六号証、乙第四号証と弁論の全趣旨によれば、本澤タネは、花岡及び中岡から売却地の所有権移転登記を求める第一次訴訟が提起された翌年の昭和四四年初め頃、当初のタネ所有地を娘婿の本澤健治に賃貸し、同人はその頃別紙図面の貸工場と記載のある部分に鉄骨造スレート葺平家建の貸工場を建築してこれを第三者に賃貸していたが、昭和四六年五月一五日被告会社を設立(代表取締役被告本澤ヱイ、取締役本澤健治、なお昭和五四年一〇月一三日本澤健治が代表取締役、被告本澤ヱイが取締役となり現在に至る)するに及んで右土地の賃借権と建物所有権を被告会社に承継させ、その後本澤タネは、第一次訴訟で同人敗訴の判決が確定した後の昭和四八年五月二〇日付で被告会社との間で六三七番の土地の賃貸借契約書を作成したほか、同五一年一月一五日付で同番七の土地(同年二月三日分筆)を同日以降被告会社に賃貸する旨の契約書を作成したうえ、同年七月五日に同年五月一五日設定契約を原因として本件賃借権設定登記をしたことが認められる。

しかしながら、本澤健治がタネの娘婿で同居していることと両名間の右賃貸借が第一次訴訟提起後になされていることからすれば、本澤健治は花岡及び中岡に対する前記売買及び地役権設定の事実を知悉した上で右契約をしたものというべきであるし、昭和四六年三月一日に第一次訴訟の第一審判決を受けた本澤タネは、同年七月一七日当初のタネ所有地について売買予約を仮装して同人の孫(被告本澤ヱイの子)である本澤康博名義の所有権移転請求権仮登記を設定し、これに対して花岡が右訴訟終了後の昭和四八年に右タネと康博を被告として右仮登記の抹消と本件通路の通行妨害排除を求める第二次訴訟を提起すると、同五一年二月三日六三七番七の土地を分筆した上、被告らにおいて本件通路上の後記本件倉庫と同じ場所に旧倉庫を建築し、更に右訴訟の第一審でタネと康博が同年五月二七日敗訴するや、同年七月五日本件賃借権設定登記をするに至つたとの経緯(右売買予約が仮装であることは成立に争いのない甲第九号証、第一二、一三号証と右経緯、身分関係から容易に推認され、旧倉庫の建築については被告会社代表者本人尋問の結果によりこれを認め、その余の事実は当事者間に争いがない)に鑑みると、タネと本澤健治又は被告会社との間の右賃貸借契約及び本件賃借権設定登記は、いずれも花岡らの前記地役権を害する目的でなされたものというほかなく、これらが花岡らに対抗する趣旨のもとになされたものであることは被告会社代表者もこれを認める供述をしているところである。

そうすると、花岡らから前示のとおり土地所有権と地役権を承継した原告河野、同池内の両名は、右地役権をもつて被告本澤ヱイはもとより被告会社に対してもこれを対抗することができるから、右原告らは被告らに対し本件賃借権設定登記の抹消を求めることができる。

また前記甲第一〇一号証、成立に争いがない甲第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇〇号証と被告会社代表者本人尋問の結果によれば、被告会社が別紙図面の本件倉庫と記載する部分に本件倉庫を建築所有していることが認められ、これによれば、被告会社は本件倉庫を所有することによつて、本件通路の通行を妨害して地役権を侵害するとともに同図面の斜線部分において原告河野所有の六三七番五の土地に侵入してその所有権を侵害しているものと認められるから、被告会社に対し、原告河野及び同池内は本件倉庫の収去(但し本件通路上部分)と本件通路の通行妨害禁止を、原告河野は右侵入部分の収去と土地明渡しをそれぞれ求めうるのみならず、被告本澤ヱイ及び被告代表者の各本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、被告会社の右妨害行為は被告本澤ヱイの意をも体したもので、原告河野及び同池内の地役権を争うという点では一体のものとみて差し支えないから、同原告らは同被告に対しても本件通路の通行妨害禁止を求める利益を有するというべきである。

四  そこで最後に、損害賠償の請求について判断すると、まず原告河野、同八木の両名が昭和五六年六月二六日六三七番五、六の各土地を原田克から買受け、その所有権移転登記を受けたことは前示のとおりである。そして、原告河野昭満本人尋問の結果及びこれにより右売買後の貸工場北東角付近の状況を撮影した写真であると認められる検甲第四、五号証並びに弁論の全趣旨によれば、右売買の当時には既に本件倉庫が建築されていて本件通路の通行が阻害される状態にあつたが、被告会社ないし被告本澤ヱイは貸工場の北東角(別紙図面のQ点)から本件通路上に鉄製の門扉を設置したほか、本件通路上の三個所にドラム罐を並べ、あるいは本件倉庫の西側に六三七番五の土地に侵入して南北約一六メートルにわたる金網の柵を設けるなど、執拗に妨害をくり返したことが認められる。これら被告らの妨害行為は、そもそも被告らにおいて花岡らの前記所有権の取得と地役権の設定を肯認していないことに起因するものであり、被告本澤ヱイ及び被告会社代表者の各本人尋問の結果によると、鉄製門扉やドラム罐の設置については、右原告らが本件通路を使用してその所有地内に土石を搬入したことに対する貸工場の賃借人らの不満も与かつていると見られるとはいえ、既に第一次訴訟の確定判決により六三七番五、六の各土地の売買を原因とする分筆と所有権移転登記が完了しているばかりか、第二次訴訟の確定判決により本澤康博名義の所有権移転請求権仮登記が抹消され、かつ本件通路の通行妨害禁止を命ぜられている(これらの事実は当事者間に争いがなく、前掲甲第一三号証によれば、第二次訴訟は最高裁判所が昭和五三年三月三〇日上告棄却の判決をしたことにより確定している)という事情のもとでは、被告らの右妨害行為は、権利の防禦ないし応争行為の範囲を超えるもので、明らかに不法行為に該当するといわなければならず、被告らは共同不法行為者として原告河野、同八木が右妨害行為によつて蒙つた後記損害金一五〇万円を各自賠償する義務がある。

1  本訴弁護士費用並びに保全手続費用

原告河野昭満本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一〇二号証の一、二、第一〇三号証の一、三、成立に争いのない同号証の二並びに前掲甲第一号証の二、三によれば、原告河野、同八木の両名は、本訴訟提起に先立ち六三七番七、八の各土地について処分禁止の仮処分を申請し、昭和五六年一二月二五日同命令を得て同日その旨の登記を経たが、同五七年二月一七日司法書士池上毅に対し、右申請に伴う諸費用として金三一万三五〇〇円を支払い、また本訴訟の提起を原告ら訴訟代理人三名に委任し、右着手金あるいは調査費用として、同五六年一〇月二七日金一〇万円、同年一一月一四日金五〇万円、同五七年一〇月一八日金五万円の各支払をなし、以上合計金九六万三五〇〇円の支払をしたことが認められる。

本件訴訟以前の前示経過に照らすと右保全手続は必要なものであり、また弁護士費用として成功報酬の支払がなされることも一般に予想されるところ、本件事案の難易、本訴に至る事情等本件に顕われた諸事情を併せ考えると右費目の損害金として金一〇〇万円を認めるのが相当である。

2  所有地を有効に利用できないことによる賃料ないし金利相当の損害金

この点につき原告河野昭満は、本件倉庫が存在するため六三七番五の土地上に居宅を建築するための建築確認の許可が下りない旨、東大阪市の職員から説明を受けたため建築を断念し、やむをえず右土地を駐車場として利用していると供述しているが、前掲甲第一〇〇、一〇一号証によれば、右土地は本件倉庫の南側で本件通路に二メートル以上の区間接していると認められるから、本件通路が建築基準法上の「道路」に該当するものであれば、同法四三条に定める接道条件は満たされていることになるところ、片や六三七番六の土地上には原告池内が建築確認の許可を得て居宅を建築ずみであることからすると、東大阪市職員の右説明の法的根拠等について更に吟味した上でなければ、原告河野の居宅建築の可否並びにこれと本件倉庫の存在との因果関係の判断は、これをなしえないものといわなければならない。

そうすると、右土地が本件倉庫の存在によつて駐車場としての不充分な利用しかできなくなつたとまで認めることはできず、前記その余の防害行為に関しても、これによつて右土地の利用が抽象的に阻害されたとして、これを慰藉料の判断資料とすることはできても、それとは別に更に金銭をもつて算定する程度に土地利用が阻害されたとする具体的な立証はないので、結局右土地についての賃料ないし金利相当の損害金を請求する部分は失当である。

3  慰藉料

前認定の諸事実と原告河野昭満の本人尋問の結果によれば、同原告及び原告八木の両名は、昭和五六年六月二六日原田克から六三七番五、六の土地を代金四一一二万四〇〇〇円で買受け、これを各二分の一の持分で共有することになつたが、右売買の際仲介業者から第二次訴訟の判決書を示され、通路については最高裁判所の判決で決着がついている旨説明を受けて安心していたところ、案に相違して前記のとおり被告らから通行の妨害行為がなされ、これがため、右土地への土入れを不充分のまま終了したほか、被告らの妨害に対する対策に腐心するなど精神的な負担と煩瑣を強いられる結果となり、結局保全手続を経て本訴を提起するに至つたことが認められ、この事実に本件に顕われた諸事情を考え併せると、原告河野、同八木の両名が被告らに請求することのできる慰藉料としては、金五〇万円と認めるのが相当である。

五  以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴請求は、損害金の支払いを求める以外の請求と、損害金請求のうち金一五〇万円とこれに対する不法行為後の昭和五七年二月二一日(被告らに本件訴状が送達された日の翌日)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行及びその免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木敏行 宮岡章 梅山光法)

物件目録

(一) 東大阪市友井五丁目六三七番五

宅地 三九三・六四平方メートル

(二) 同番六

宅地 一〇〇・六四平方メートル

(三) 同番七

宅地 八八・五五平方メートル

(四) 同番八

田 三三四平方メートル

(五) 同番一

田 八七三平方メートル

(六) 同所同番地七、同番地一

家屋番号 六三七番七

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫

床面積 二一・五一平方メートル

登記目録 (一)

一、賃借権設定

昭和五壱年七月五日受付第壱壱七四〇号

原因 同年五月壱五日設定契約

借賃 壱ケ月金八千円也

支払期 毎月末日

存続期間 昭和五壱年五月壱五日から弐〇年間

特約 譲渡、転貸ができる。

賃借権者 東大阪市友井四丁目壱〇番弐号

本沢興産有限会社

登記目録(二)

一、承役地の所在

東大阪市友井五丁目六参七番七

宅地 八八・五五平方メートル

及び

東大阪市友井五丁目六参七番八

田 参参四平方メートル

二、要役地の所在

東大阪市友井五丁目六参七番五

宅地 参九参・六四平方メートル

三、登記事項

(1)  (承役地)

地役権設定

原因 昭和四〇年壱壱月参日

目的 通行

範囲 全部

要役地 東大阪市友井五丁目六参七番五

(2)  (要役地)

要役地地役権

承役地 東大阪市友井五丁目六参七番七及び同番八

目的 通行

範囲 全部

登記目録 (三)

一、承役地の所在

東大阪市友井五丁目六参七番七

宅地 八八・五五平方メートル

及び

東大阪市友井五丁目六参七番八

田 参参四平方メートル

二、要役地の所在

東大阪市友井五丁目六参七番六

宅地 壱〇〇・六四平方メートル

三、登記事項

(1)  (承役地)

地役権設定

原因 昭和参八年六月一四日

目的 通行

範囲 全部

要役地 東大阪市友井五丁目六参七番六

(2)  (要役地)

要役地地役権

承役地 東大阪市友井五丁目六参七番七及び同所同番八

目的 通行

範囲 全部

図〈省略〉

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